薬剤師国家試験104回 209 チエノピリジン系の化学構造

問題の要点
- チエノピリジン構造(① 正)
→複素環アミンの構造は覚えておきましょう - プラスグレルから代謝物Aへの活性化に関わるのはエステラーゼ(② 誤り)
→構造の変化を見ると、エステル→アルコールに変換されています。これはエステルの加水分解反応なので正しい答えは「エステラーゼ」です。 - AとBはケトエノール互変異性と呼ばれる性質です。(③ 正解)
→エノールとケトンは互変異性を持ちます

- 代謝物Bの構造中にはキラル中心が二カ所存在している(⑤ 正)
→よってジアステレオマーを有する化合物であると言えます - 加水分解によって生じたチオール基(R-SH)が血小板のADP受容体P2Y12のシステイン残基と共有結合を形成する。(⑤ 正)
考察と実務実習での応用例

まず、試験対策として見ると
有機化学(立体化学)分野と物理化学(化学結合)から出題されています。
特に共有結合の形成、代謝活性化の経路はプラスグレルの特徴(キャラクター)そのものと言っていいほど重要な要素です。
少し見てみましょう。
前提知識として「共有結合」は強力な化学結合というイメージを持っておきましょう
高校の化学でも習う「共有結合」これは水素結合やファンデルワールス相互作用に比べて非常に高い結合エネルギーを持ちます。
C-C結合では347kJ/mol S-S結合では213kJ/molと高い結合エネルギーを有しています。
以前の記事で紹介した水素結合の強さが10~40KJ/mol程度であることを考えると非常に強力な結合であると言えるでしょう。


ターゲットとなるタンパク質と薬物が一度共有結合を形成すると自発的な解離反応は殆ど起きません。
よって、ターゲットと共有結合を形成する医薬品は不可逆的に作用する薬物であると言えます。
共有結合形成は全てのチエノピリジン系に共有する性質です。


チエノピリジン系抗血小板薬3剤の構造を見てみましょう。
全ての薬剤に共通してチエノピリジン構造が含まれています。
この構造は生体内で代謝を受けてチオール基を含む構造になります。


次に、タンパク質中のシステイン残基とジスルフィド結合を形成し立体構造に影響を及ぼします。ジスルフィド結合は共有結合性の化学結合なので不可逆的な影響になります。
チエノピリジン系薬の主なターゲットは血小板のADP(PY12)受容体です。
これは血小板が活性化するために必要な受容体です。
薬剤に一度暴露し、この受容体の機能を失った血小板は凝固活性が戻りません。このためこれらの薬剤投与後は新しい血小板が作られるまでの間、出血リスクの高い治療などは出来なくなります。
※添付文書上では術前休薬期間は14日間となっています。
代謝活性化についてはクロピドグレルとプラスグレルの使い分け理解の為に
今回の出題では、プラスグレルの代謝反応についても聞かれています。プラスグレルの特徴はクロピドグレルのとある欠点を克服している点にあると言えます。そしてそれはある程度有機化学で説明する事が出来ます。

今回の出題で、エステルの加水分解やケトエノール互変異性を介した代謝活性化が問われているのはクロピドグレルとプラスグレルの性質の違いに関係するメカニズムであるためです。
クロピドグレルはCYP2C19による酸化反応が二段階必要


クロピドグレルの代謝経路を見てみると、活性体であるチオール基が形成されるまでに酸化反応が二段階起きていることがお分かりいただけるかと思います。
そしてその2段階の反応両方にCYP2C19が関与しております。

○○君(さん)
CYP2C19の活性が弱い人って日本にどれくらいいるか覚えていますか?

大学では日本人の20%ほどがPMだと教わりました!
定期試験や、CBT、国家試験でもよく出題されていましたね💦

○○君(さん)
そうですね!テストでも出題されやすい分野かと思います。では、クロピドグレルについてCYP2C19の活性が弱い人が飲むとどのような影響があると思いますか?

クロピドグレルの作用が弱くなってしまう事が考えられます。
チエノピリジン系は活性代謝物が持つチオール基(R-SH)が薬効に関係する薬剤なので。この形態になれなければ作用が発揮されません。
クロピドグレルがこの状態に代謝される為に2段階代謝が必要でその両方にCYP2C19が関与しているので、CYP2C19が弱いとそれに応じて作用も弱くなってしまうと考えます。

そうですね!
日本人の20%ほどはCYP2C19のPMであると言われていますので、5人に1人はクロピドグレルが効きにくい体質の人がいると言えるでしょう。
これがクロピドグレルの欠点であると言えます。
※オマケ CYPの個人差まとめ

対してプラスグレルはCYPによる代謝は1段階のみ


対してプラスグレルでは一段階目がエステルの加水分解反応です
加水分解によって生じたヒドロキシ基がケトエノール互変異性によってチオエステル構造になり。その後CYPによる代謝をうけ活性体(チオール)になります。

○○君(さん)
プラスグレルのクロピドグレルに対する利点は何か分かりますか?

プラスグレルは代謝活性化にCYPが関与するのは1段階のみであるので遺伝子多型の影響を受けづらい事が挙げられます。

正解です!良い考え方ですね
もう一つ大きな利点があるのですがそれは分かります?

もう一つですか・・・
すみません思いつかないです💦

一般的に生体内では、加水分解反応は非常に速やかに進行すると言われています。
プラスグレルの代謝経路の一段階目はエステラーゼによる加水分解反応です。よって二段階ともCYPであるクロピドグレルに比べて比較的作用が速やかに発現すると考えられています。
抑えておきたい関連キーワード

関連する用語のキーワードをここに列挙します。説明出来るようにしておくと良いでしょう。
生物
血小板 ADP受容体(P2Y12: Giタンパク P2X: 陽イオンチャネル内蔵型)
物理
共有結合 非共有結合(水素結合 イオン結晶 ファンデルワールス力 π-π相互作用)
化学
チエノピリジン骨格 ケトエノール互変異性 チオール基 キラル中心 ジアステレオマー エナンチオマー
こちらの記事でも一部チエノピリジン系の薬剤について触れていますので興味ある方は是非!
内容としては、チエノピリジン系の抗血小板薬と新規抗血小板薬チカグレロルの違いに関して実習で経験した内容になります。
コメント