初めに
今回の記事では、1年目の新卒薬剤師が感じた「薬学生時代と薬剤師になってからの違い」について詳しく述べます。
具体的には、実務実習との違いや、大学での学びと実務の関連性について、具体例を交えて解説します。
学生のうちは、「現場に立つようになったら何をしなければならないのか? 本当にやっていけるのか?」といった不安が多いと思います。そこで、薬剤師に求められるスキルや知識を言語化することで、読者の皆さんの参考になればと考えています。
主なポイント
まず初めにポイントを列挙します。
- 実務実習との違い:
→給与が発生すること、仕事の裁量が大きくなること、自発的な振り返りが求められる点が挙げられます。 - 調剤報酬の理解:
→薬剤師に求められる業務内容を明確に言語化したもの。理解することで、実務に必要なスキルが見えてきます。 - 国家試験で学んだ知識を実践にステップアップ:
→国家試験で学んだ薬学知識を、現場で使えるように応用し、実践的なスキルへと発展させます。
実務実習との違いを理解する
- 報酬を受け取る立場になる:
→薬剤師として実務に従事し、責任を伴う業務に対して報酬を受け取ります。 - 自発的に振り返りを行う:
→自分の業務を見直し、継続的な改善を図るため、日々の振り返りが重要です。 - 裁量が高く責任が伴う:
→薬剤師として、裁量の大きい業務を任され、その分責任も増加し判断を求められる事も増えます。
報酬を貰う立場になる。ただし肩の力を入れすぎない
薬剤師として報酬を得る以上、会社や患者様のニーズを満たすことが求められます。学生時代は自分の興味を追求していればよかった分、この違いに戸惑うこともあるでしょう。ここで言うニーズ満たすとは「何をする事が相手の役に立つのか?」を徹底的に考えて仕事に向き合うことだと思います。
ただし、肩の力を入れすぎるのは良くありません。私たちは社会人である前に人間です。過度なストレスは自然と周囲に影響を与えるため、適度なリラックスも大切です。
ここで、一つ考えついた結論が、自身の趣味ややりたい事と求められるニーズの共通点を探すです。

筆者は前から医薬品の構造式やヒトの身体機能について学ぶ事が楽しかったです。それに対して、業務として求められるのは用法用量や診療報酬、コミュニケーション能力といったものになります。
これらを完全に一致させて考えるのは難しいですが、一部流用できる考え方や共通点があるはずです。この様に、自分のやりたい事と自分に求められている事の共通点を積極的に探していく事で、肩の力を入れすぎる事なく求められている役割を果たしていく事が出来るという考えに至りました。
自発的に振り返る必要がある
毎日、提出する日誌がないということになります。もちろん、会社によっては日報の作成が求められることもあるため、一概には言えません。しかし、自発的に毎日の業務を振り返ることは非常に重要です。振り返りを通じて、業務の改善点や成長の機会を見つけることができます。
振り返るポイントは2つです。1つ目は「間違いを再発しないための工夫を考えること」です。過去の失敗を分析し、同じ間違いを繰り返さない対策を立てることが重要です。2つ目は「上手くいった事例を次に生かすこと」です。成功体験を振り返り、良かった要因を明確にすることで、今後の業務に活かせます。

これは、私自身が投薬において上手くいく時と上手くいかない時の特徴を言語化したものです。この2つの観点から振り返りを徹底することで、少しずつ業務の精度を向上させていけると考えています。
裁量が高く責任が伴う
裁量が高いことも実習との大きな違いです。入社から4ヶ月が経過した今でも、戸惑うことが多い状況です。
- 不足薬がある場合は自分の判断で卸業者に発注。
- 1人で服薬指導を行い薬歴を記入。確認事項なども全て自分で考える。
- 疑義照会の際には自分の判断で代替薬を提案、算定する加算を判断。
実習生時代には、指導薬剤師に確認しながら行っていた業務も、今では自分自身の判断が求められるようになります。経験や知識が不足しているため、判断に迷うことが多く、大変さを実感する瞬間が増えていくでしょう。
これについて、基本は先輩社員に確認を取りつつ進めていく事が重要になりますがここで2つ程意識しておきたい事があります。1つは「自分の考えを添えた上で質問する事」「何をして欲しいのか明確にした上で質問する事」になります。
※質問例
調剤報酬について理解する
調剤報酬とは、薬剤師に求められる役割の言語化(残薬調整を例に)
調剤報酬とは、薬剤師に求められている内容を言語化したものになります。算定を行う上で重要になる知識は、「いつ」、「何をすれば」、「何回まで」算定できるか?になります。具体例として、重複投薬・相互作用防止加算(残薬)について示します。
- いつ?
→処方箋受付1回につき - 何をすれば
→残薬数を基に、疑義照会を行い処方内容や日数を調整する。変更記録を薬歴に残す - 何回まで
→記載なし

ア 重複投薬・相互作用等防止加算は、薬剤服用歴等又は患者及びその家族等からの情報等に基づき、処方医に対して連絡・確認を行い、処方の変更が行われた場合に処方箋受付1回につき算定する。ただし、複数の項目に該当した場合であっても、重複して算定することはできない。なお、調剤管理料を算定していない場合は、当該加算は算定できない。また、当該加算を算定する場合においては、残薬及び重複投薬が生じる理由を分析するとともに、処方医に対して連絡・確認する際に必要に応じてその理由を処方医に情報提供すること。
イ 「イ 残薬調整に係るもの以外の場合」は、次に掲げる内容について、処方医に対して連絡・確認を行い、処方の変更が行われた場合に算定する。
(イ)併用薬との重複投薬(薬理作用が類似する場合を含む。)
(ロ)併用薬、飲食物等との相互作用
(ハ)そのほか薬学的観点から必要と認める事項
ウ 「ロ 残薬調整に係るものの場合」は、残薬について、処方医に対して連絡・確認を行い、処方の変更が行われた場合に算定する。
エ 重複投薬・相互作用等防止加算の対象となる事項について、処方医に連絡・確認を行った内容の要点、変更内容を薬剤服用歴等に記載する。
オ 同時に複数の処方箋を受け付け、複数の処方箋について薬剤を変更した場合であっても、1回に限り算定する。
カ 当該加算は、在宅患者訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料、在宅患者緊急時等共同指導料、居宅療養管理指導費又は介護予防居宅療養管理指導費を算定している患者については算定できない。原文より引用 https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001252056.pdf#page=17
これを基に投薬における会話例を考えてみます。処方内容は長い間変更なくDoで続いている方だと想定します。

患者様が、夕食後の飲み忘れが多いと訴えていることから、メトホルミン、クエン酸第一鉄、ランソプラゾール、アスコルビン酸・パントテン酸カルシウムに余りがある可能性が考えられます。
もしこの患者様が次回来局時、余りの薬を持ってきてくれれば。その残数に応じて次回処方日数変更の疑義照会をする事が可能です。(次回も処方変更なしとする)

このように疑義照会を行い、変更記録を薬歴に残す事でお会計に30点(300円)を上乗せして算定する事が可能になります。
まずは算定の全体像を把握することから
前段落では、残薬調整を例として取り扱いましたが、この他にも多くの算定があります。以下に調剤報酬点数表の全体像を示します。

ここで重要になって来るのが、薬局における業務のフローにそれぞれの点数を当てはめて考えていく事です。

対物業務の調剤技術料
調剤基本料は受付代金
調剤基本料は、処方箋受付1回毎に算定できる点数で、処方箋受付料と考える事が出来ます。調剤基本料1~3、特別調剤基本料と区分分けされており、処方箋の集中率や薬局の規模などによって算定できる区分が異なります。
ここに対する主な加算として、地域支援体制加算、連携強化加算、後発医薬品調剤体制加算、在宅薬学等総合体制加算、医療DX推進体制加算等が在ります。
※図表作る
患者様1人1人への対応というよりは、店舗全体としての取り組みや施設要件などで評価が変わって来る印象です。
薬剤調整料は調剤を行う手数料
薬剤調整料は、調剤行為に対して発生する報酬です。内服薬、頓服薬、浸煎薬、湯薬、注射薬、外用薬の区分ごとに算定ルールが異なります。細かい点数については処方時にレセコンが自動算定してくれます。
しかし、当然のことですが入力に誤りがあると誤った点数が算定されてしまいます。この辺は鑑査を行う際にチェックしなければいけない項目になります。例えば、内服のアセトアミノフェンが誤って頓服と入力されている等があります。
薬剤調整料に対する加算は、無菌性剤処理加算・麻薬等加算・自家製材加算・計量混合調剤加算等の特殊な技術(OSCE等で習うような技術)が必要とされるもの、そして時間外加算や夜間休日等加算等の受付時間に関わる加算があります。
対人業務の薬学管理料
調剤管理料は鑑査に関する料金
調剤管理料は、処方薬が適切なものであるかの判断を行う事に対して発生する報酬です。すなわち鑑査です。
- 服薬歴
- 副作用歴
- アレルギー歴
- 併用薬、服薬状況チェック
- 体調変化
これらの情報を基に、処方された薬剤の種類・量・投与日数等が適切であるかを判断します。
主な加算は、重複投薬相互作用等防止加算(相互作用や病態禁忌や残薬チェック)・調剤管理加算(6種類以上の内服薬)・医療情報取得加算(お薬手帳やマイナンバー)です
服薬管理指導、かかりつけ、在宅訪問等は投薬及関する料金
薬はただ渡すだけではいけません。投薬時には適切な使い方や管理に関する情報提供を行う必要があります。これに対して発生する報酬が以下の点数になります。
- 服薬管理指導料(外来での投薬)
- かかりつけ薬剤師指導料(かかりつけ患者への投薬)
- かかりつけ薬剤師包括管理料(かかりつけ患者への投薬,加算包括)
- 在宅患者訪問薬剤管理指導料(介護保険無い患者への計画通りの在宅投薬)
- 居宅療養管理指導(介護保険在る患者への計画通りの在宅投薬)
- 在宅患者緊急訪問薬剤管理指導(在宅患者への急配、指導)
- 在宅患者緊急時等協同指導料(往診同行)
- 退院時共同指導料(退院予定の入院患者)
- 在宅移行初期管理料(訪問計画を行う前段階の患者)
どの点数を算定するかは、患者の状況、在宅か外来か?等によって変わってきます。しかしやらなければならない事の大筋は共通しており、薬の適正使用に関する情報提供を責任を持って行う必要があります。
これらの点数を算定する際は、必ず算定根拠を意識して
○○の患者に××と言った指導及び薬歴記録を行ったので△△を算定します
としっかりと説明できるようにしておく必要があると言えるでしょう。
その他は投薬後のフォローアップ
投薬後もフォローアップを継続する必要があります。以下の加算は薬剤を渡した後も適切に薬物治療を継続できるようにサポートを行った際の報酬になります。
- 外来服薬支援1,2(服薬管理の支援、一包化など)
- 服用薬剤調整支援料(6種類以上の内服薬使用患者の減薬)
- 調剤後薬剤管理指導(糖尿病、慢性心不全)
- 服薬情報等提供料(トレーシングレポート)
- 在宅患者重複投薬相互作用(重複投薬相互作用防止加算)
- 経管投薬支援料

所属店舗の基本算定を把握する。
調剤基本料、地域支援体制加算、医療DX推進体制加算等は店舗の施設基準等によって算定する分類が変わってきます。対して調剤管理料や服薬管理指導料は鑑査や投薬時に行った事が直接的に算定に繋がる事も少なくありません。
以下に鑑査・投薬時に意識しておきたい項目を列挙します
- 基本料、地域支援体制、医療DX推進体制加算等については店舗の基本算定を把握しておく
- 調剤管理料は用法用量、飲み合わせ、既往歴などの妥当性を評価する際の報酬
- 服薬管理指導指導料は患者様に薬を正しく使って貰う為の説明責任に対する報酬
- 薬を渡した後の事も考える(外来服薬支援、服用薬剤調整支援、調剤後薬剤管理指導、)
国家試験で学んだ知識を実践仕様にステップアップさせる
次に、薬の勉強をしていく上での向き合い方の違いについてです。
学生時代は基礎科学→臨床科目→実務科目という構成
薬学生時代は、まず基礎科学(物理,化学,生物)を学び、その知識を基に薬理や動態、製剤そして法規等があります。そしてその上に病態や治療があるという印象でした。

基礎科学で温度や単位、化学構造、生体分子といった項目について学び。薬理で薬の作用について、動態ではADME、製剤では剤形や添加物そして保存条件、法規では医薬品の取り扱いや制度について学びます。そして病気について知り、その病気にどの様な薬を使うのか?
ここまでが薬学生が大学で学ぶ事になります。
薬剤師になるとこれに上乗せする形で調剤、鑑査、服薬指導
医薬品毎の用法用量、副作用、相互作用
薬剤師になると、そこに上乗せされる形で各医薬品毎の適応や用法用量、副作用、相互作用などを把握していく必要があります。
- 先発品名と成分名
- 販売されている規格
- 一般的な用法用量(1日回数や服用タイミング)
- 禁忌(疾患禁忌、併用禁忌)
- 生活で注意するべき事(副作用、飲み忘れ対策)

処方の違和感に敏感になる
等が、鑑査投薬を行う時に把握しておくべき内容になります。特に監査で重要になるのが、「違和感に敏感になる」ことだと考えています。作用機序が真逆の処方、1日回数が普段と違う、1日量が明らかに多い、服薬タイミングに違和感あり。等です
以下にそれぞれ具体例を示します。
学生時代の薬理の知識を応用。作用機序からの違和感


作用機序が真逆な薬処方されているけど大丈夫か???
用法用量からの違和感。調剤しながら○○の薬は一日△△mgで××回などを把握しておく。


この薬1日1回が一般的なのに1日3回で来てるぞ???
同成分医薬品や腎機能などから過量投与にならないか?


明らかに普段より1日量多いけど大丈夫か???
服用タイミング、作用時間と患者さんの生活を結び付けた際に感じる違和感


利尿剤が寝る前?
むくみが起きている原因として考えられる事は???
処方日数から感じる違和感

まとめ
- 実務実習との違い:
→給与が発生すること、仕事の裁量が大きくなること、自発的な振り返りが求められる点が挙げられます。 - 調剤報酬の理解:
→薬剤師に求められる業務内容を明確に言語化したもの。理解することで、実務に必要なスキルが見えてきます。 - 国家試験で学んだ知識を実践にステップアップ:
→国家試験で学んだ薬学知識を、現場で使えるように応用し、実践的なスキルへと発展させます。
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