対象読者
- 薬理を学習し始めの薬学1~3年生(記事前半)
- 実習中の5年生
- 国家試験学習中の6年生
はじめに
はじめに
今回は抗ヒスタミン成分について、薬理学的観点、有機化学的観点、薬物治療学的観点、実務的観点など様々な科目の観点から触れていきたいかと思います。また、私事ですが新卒薬剤師として働き始めて初の記事になります。
記事全体の構成としては、まず薬理や生物化学などの理論的な項目から始め、その後実務臨床的な内容に繋げていく予定です。
理論的な内容に興味のある方は最初から、実務的な内容に興味のある方は後半からお読み頂けると幸いです。
抗ヒスタミン薬について
薬理の観点
抗ヒスタミン薬の作用機序
第一世代抗ヒスタミン薬はヒスタミン受容体を不活性化する作用、第二世代はこれに加えて肥満細胞からのヒスタミンの遊離を抑制する作用を有しています。

まずは、薬理学の観点からアレルギーの流れを見てみます。
花粉(抗原)が肥満細胞表面のIgEに結合すると、Fcεレセプターのシグナルを介してヒスタミン等の遊離を促進します。
下図は、分泌小胞が脱顆粒に至る流れと、IgE産生に関与する免疫細胞の細胞間シグナルのまとめになります。


IgEはもともと肥満細胞に生えている訳ではなく、抗原感作によって生じた形質細胞由来のものになります。
花粉症は、肥満細胞上に存在するIgE抗体が一定数以上を上回ることで発症に至ると考えられています。
生物 分泌小胞からの物質遊離について

第一世代、第二世代抗ヒスタミン薬の作用
第1世代、第2世代共にヒスタミン受容体を不活性状態で安定化します。

第2世代はこれに加えて肥満細胞からのメディエーター遊離を抑制する作用も有しております。
メディエーター遊離を抑制する理由は、Fcεレセプター由来のシグナル抑制や細胞膜の安定化など様々な理由が考えられていますが現状、詳しく解明されている訳ではありません。
フェキソフェナジン塩酸塩は、選択的ヒスタミンH1受容体拮抗作用を主作用とし、加えて炎症性サイトカイン遊離抑制作用、好酸球遊走抑制作用及び各種ケミカルメディエーター遊離抑制作用を示す。
アレグラ錠 添付文書
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/4490023F1024_1_24/
化学の観点
次に、有機化学の観点から「抗ヒスタミン薬によるヒスタミン受容体の安定化」及び「第1世代と第2世代のヒスタミン受容体への選択性の違い」に着目していきます。
ヒスタミン結合による受容体活性の変化

受容体の結合領域にリガンドであるヒスタミンが結合すると、薬との相互作用によりアミノ酸の立体構造が変化します。
これがトリガーとなりヒスタミン受容体は活性化すると考えられています。
逆に、抗ヒスタミン薬はヒスタミン受容体を不活性体で安定化させます。
抗ヒスタミン薬の構造
以下の画像は、第1世代と第2世代の抗ヒスタミン薬(抜粋)の構造です。

第1世代抗ヒスタミン薬は、荷電領域及び疎水性領域が全て似通った配置になっています。第2世代の方も同様の配置をしていますが、フェキソフェナジンとビラスチンは構造上部にカルボキシ基が存在しています。
カルボキシ基の水溶性により、中枢に移行しづらく眠気などの中枢副作用が発生しにくいとよく言われていますが、このカルボキシ基の効果はそれだけではないと考えられています。
ヒスタミン受容体と抗ヒスタミン薬の結合領域

上記画像は、ヒスタミン受容体と第一世代抗ヒスタミン薬の結合様式を抜粋したものになります。
第一世代抗ヒスタミン薬はアスパラギン酸残基とセリン残基に結合し、ヒスタミン受容体を不活性化すると考えられています。
この結合部位ですが、大きく分けて二つの領域に分けられると考えられています。それはヒスタミン受容体に固有の領域と、アミン受容体に共通して見られる領域になります。
赤で囲った領域はアセチルコリンやノルアドレナリンなどアミン類の受容体に共通的な構造になります。対して青で囲った領域はヒスタミン受容体に特有の構造であり、塩基性アミノ酸(Lys,His)によりリン酸が保持されている構造となっております。


第一世代抗ヒスタミン薬は主に、赤で囲ったアミン受容体共通領域に入りこむように結合します。
また分子量が低く、入り込みやすい為強力にヒスタミン受容体の活性を抑制すると考えられています。

この事から、後述する第2世代抗ヒスタミン薬と比較して、ヒスタミン受容体安定化作用は強力であり既に症状の出ている状態でも比較的早く効果を感じられる事が特徴になります。

ただ、結合ターゲットがアミン受容体に共通的な構造である事がデメリットであり、ドパミンやノルアドレナリン、アセチルコリン受容体など様々な受容体を抑制してしまう事がデメリットとして挙げられます。
日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)144,43~44(2014) https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/144/1/144_43/_pdf
余談: クロルプロマジンは抗ヒスタミン薬から開発された?
余談になりますが、抗精神薬クロルプロマジンは第一世代抗ヒスタミン薬プロメタジンを基に開発された薬剤になります。アミン受容体共通部位に作用する事を利用し、中枢神経系を強力に抑制する作用を有します。

特にドパミン受容体への選択性が高く、これが抗精神病作用や強力な鎮静作用に関わっていると考えられます。
第二世代抗ヒスタミン薬のヒスタミン受容体選択性の高さについて

第2世代のうちフェキソフェナジンとビラスチンは、構造上部にカルボキシ基を有しておりこれが、ヒスタミン受容体特有領域にあるリン酸の代わりとして機能します。これが、ヒスタミン受容体選択性の向上に関与していると考えられています。

※注:第一世代ほど強力では無いですが、第二世代でも、添付文書上「自動車運転などに注意」と記載のある薬剤もあります。(セチリジン、レボセチリジン、ルバタジン、オロパタジン)
実務の観点
ここからは、筆者が薬剤師として働き始めて1ヶ月間で抗ヒスタミン薬について思った事のまとめになります。
主要抗ヒスタミン薬の比較

アレロック(オロパタジン)とアレグラ(フェキソフェナジン)は1日2回の服用である事。
ザイザル、ジルテックは寝る前服用でありザイザル(レボセチリジン)はジルテック(セチリジン)をキラルスイッチしたものであり一回量が半分で良くなっている事。
等が特徴として挙げられます。
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/di/column/kumagai/201011/517241.html
引用 日経メディカル (「レボ○○」という薬のマニアックな話)
フェキソフェナジンの30mg規格に驚き
先発品のアレグラ(フェキソフェナジン)、OTCとしても販売されている有名なお薬かと思います。筆者自身もアレグラには凄くお世話になっているのですが・・・
ここで、普段良く使っているため、勝手に「フェキソフェナジンは60mg規格だ!」と恐ろしい思い込みをしてしまっておりました🙇
思い込みとは非常に恐ろしく、フェキソフェナジンという文字を見た段階で紫色の60mgフェキソフェナジンをピッキングしてしまうミスを起こしかけました・・・
思い込みとは恐ろしい物であり、よく使う医薬品は取り扱い規格などしっかり把握しその使い分けについて理解できる様になって置くことが非常に重要であると感じました。

思い込みの恐ろしさを実感した例になります・・・・
ビラスチンの食間服用について
食事による消化管pH変化が溶解性に与える影響
ビラスチンは1日1回空腹時服用となっています。食事さえ避ければいつでも飲める事がメリットとして挙げられています。

ビラノア錠20mg
ビラスチンはOATPの基質であり、膜透過性は良好と言えます。このことから、ビラスチンの吸収は製剤の溶解速度が律速となっていると考えられます。

ビラスチンはP-gp及びOATP1A2の基質であることが確認された。
医療用医薬品インタビューフォーム ビラノア錠5mg
https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1&yjcode=4490033F1028
このことより、消化管内の溶解度の観点から考察をしてみます。

上図はインタビューフォームより引用したpHによる分配係数変化になります。中性pHでは、分配係数が高く水への溶解度が落ちていると考えられます。
医薬品のバイオアベイラビリティ(吸収率)は、溶解性と膜透過性の二つによってコントロールされています。本データより、食事による消化管pHの上昇に伴い溶解度が低下、吸収率に影響を及ぼしている可能性が示唆されます。
ヘンダーソンハッセルバルヒ式と分配係数を復習

前述したpHによる分配係数変化はヘンダーソンハッセルバルヒ式を用いて説明する事が出来ます。分配係数は「真の分配係数」と「見かけ上の分配係数」に分けられます。

真の分配係数は水槽中の薬剤が一切イオン化せず全て分子型であると仮定した時の分配係数であり、対して見かけ上の分配係数はpH変化によるイオン化を考慮したものになります。イオン型は電荷をもつため基本的に水に溶け、油層への移行はしません。

式で表すと以下のようになります。式変形をしたのちヘンダーソンハッセルバルヒ式を代入しています。酸性官能基と塩基性官能基では代入する式が変わって来る事に注意が必要です。

消化管のpH変動による分配係数変化は、両性イオンによる電荷打消しの影響を受けたりしますが、ざっくりはこの式で説明できると考えられます。

ビラスチンの選択理由
効果面では、添付文書の臨床成績より、フェキソフェナジンと同等の効果がある事が示されています。
また、明確なエビデンスとなる情報は得られなかったのですが選択理由としてフェキソフェナジンにはなくビラスチンにあるものとして「効果の発現が早い」がありました。
https://service.nikkei-r.co.jp/seminar-report/healthcare_id187
日経リサーチより引用 フェキソフェナジンとビラスチンの処方理由
服薬指導にも繋げていきたい
服薬指導時確認すること。をまとめてみます。ただ、一方的にこちらの話したい事聞きたい事を話すのではなく、自然な形で会話の中から情報を引き出していく事が先輩の指導を見学しいていて重要になると考えました。
まとめ
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