対象読者
- 薬理を学習し始めの薬学1~3年生(記事前半)
- 実務実習中の薬学生(記事後半)
- 有機化学を学びなおしたい薬剤師
はじめに
はじめに
今回はカテコールアミンに関する内容です!有機化学的な内容から、臨床で用いられる様々な薬剤について触れていきます。構成はこれまで通りで、化学的な観点で説明した後薬剤師実務的な内容に繋げていきます。
今回の記事で取り扱う薬剤の一覧になります。
神経系薬剤についてはカテコールアミン合成経路、カテコールアミン受容体について、分解酵素であるMAObについて、レボドパ製剤の配合変化についてなどに触れていく予定になります。
泌尿器の方はβ3作動薬のミラベグロン(ベタニス)とビベグロン(ベオーバ)について立体化学的な観点からその違いを比較します。
※各段落の見出しのカッコに関連が強い薬剤を記載しましたので気になるところだけでも見て頂けると嬉しいです。
カテコールアミンの合成経路(神経系)
カテコールアミン合成経路の全体像
カテコールアミンの原料となるアミノ酸はチロシンです。主に「芳香族の水酸化」「脱炭酸」「β水酸化」「Nメチル化」の4ステップで反応が進行します。

- 芳香環の水酸化
- 脱炭酸
- β水酸化
特に「脱炭酸」については、後程紹介する医薬品やサプリメントと非常に関連性が高くなってきます。
AADC(芳香Lアミノ酸脱炭酸酵素)
AADC(芳香Lアミノ酸脱炭酸酵素)

L-ドパからドパミンへの変換にはAADC(芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素)が関与します。反応の進行において、AADCのチロシン残基と補酵素成分であるピリドキサールが反応の進行に大きく関わっていると言えます。
ピリドキサール酵素の反応機構 林 秀行
https://www.jbsoc.or.jp/seika/wp-content/uploads/2014/11/86-02-13.pdf
生化学 第86巻第2号,pp.214―231(2014)
AADC阻害薬

カルビドパやベンセラジドは末梢のAADCを阻害する事で、末梢におけるレボドパ(ドロキシドパ)の分解を抑制します。

構造中にヒドラジン基が含まれており、この部分がピリドキサールに結合します。アミノ基が結合した場合と異なり、脱炭酸反応が進行しません。

カルビドパやエンタカポンは主にレボドパ製剤と併用され、レボドパの作用時間を延長させる事を目的として使用されます。カルビドパはレボドパの10分の1量を、ベンセラジドはレボドパの4分の1量がそれぞれ使用されます。

ビタミンB6とレボドパ

前述したAADCの反応機構を再度示します、着目して頂きたいのはピリドキサール(ビタミンB6)が反応の進行に於いて非常に大事な役割を果たしていることです。
レボドパ製剤を使用中の方が、ビタミンB6含有のサプリメント等を使用するとレボドパ作用の減弱が引き起こされます。
ピリドキシン塩酸塩注射液10mg「日医工」 添付文書
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3134400A1088_1_03/
ビタミンB6錠30mg「F」 添付文書
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/3134002F1057_1_06/
ビタミン剤は複数成分を配合したものも多くあります。以下は代表的な総合ビタミンをまとめたものです。これらの中には成分のうち1つとしてビタミンB6(ピリドキシン/ピリドキサール等)を含む事があります。


製品名からは、成分が分かりにくい事が多いのでこの手の薬剤を調剤・監査する際は注意する必要がありそうですね。
カテコールアミンの受容体と立体化学(神経系・泌尿器系)
カテコールアミンの受容体結合

合成されたドパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンは合成元である神経細胞(注1)から放出され、作用点の受容体に結合します。これらカテコールアミン受容体に共通して言えるのは結合部位の立体配置や立体配座が非常に重要になる事です。
これは、すくみ足治療薬であるドロキシドパ、過活動膀胱治療薬であるミラベグロンやビベグロンの構造と結び付けて考える事も出来ます。
注1)アドレナリンについては、副腎髄質からホルモンとして血中に分泌される経路もあります。
立体配置が維持されるドロキシドパ

ドロキシドパは、脱炭酸によりノルアドレナリンに変化します。レボドパ同様にLAT(Lアミノ酸トランスポーター)によって血液脳関門を通過し、その後脳内で代謝を受けノルアドレナリンに変換されます。


立体配座が影響するミラベグロンとビベグロン
過活動膀胱治療薬であるミラベグロンとビベグロン。この二つの薬剤の違いについても構造で説明が出来ます。
ミラベグロン、ビベグロンは排尿筋のアドレナリンβ3受容体を刺激する事で、排尿筋の収縮を抑制します。これにより膀胱の用量を増やし、尿意切迫感や失禁を改善します。
ベタニス錠 インタビューフォーム 薬効薬理
https://www.info.pmda.go.jp/go/pack/2590014F1021_1_13/

β3受容体への選択性はヒドロキシ基とアミノ基の立体配座によって左右されます。
ミラベグロンは紫丸で囲った部分の結合が自由に回転出来てしまうため配座が固定されていません。対してビベグロンでは、環状構造が導入された事で結合の回転が制限されます。これにより、β3受容体と結合しやすい配座が維持されるためより受容体への親和性が向上していると考えられています。
カテコールアミンの異化代謝(神経系)
ここからは、カテコールアミンの分解酵素とその阻害薬について触れていきます。
重要な酵素は、MAOb(モノアミンオキシダーゼ)とCOMT(カテコールアミン-O-メチルトランスフェラーゼ)の二つになります。
この二つの大きな違いは、MAObが中枢におけるドパミンやノルアドレナリンの代謝に関与しているのに対して、COMTは末梢におけるレボドパの代謝に関与している点になります。
MAObの反応と阻害薬
MAObの反応

MAOb(モノアミンオキシダーゼ)は、カテコールアミンの代謝に関与する酵素になります。カテコールアミンのアミノ基を酸化してイミノ基に変換させます。これによりカテコールアミンの活性を消失させます。
反応は、FADが補酵素となりヒドリドが引き抜かれていく形で反応が進行していきます。
MAOb阻害薬 109回薬剤師国家試験 出題

MAOb阻害薬(セレギリン、ラサギリン)はFADと反応し共有結合を形成する事でMAObの活性を阻害します。これにより脳内でのドパミン分解を抑制させます。
このことから、レボドパ製剤の作用時間を持続させる働きが在ると言えます。

COMTについて
COMTについて

COMT(カテコールアミン-O-メチル転移酵素)は、カテコールの水酸基をメチル化する酵素になります。メチル基供与体としてS-アデノシルメチオニンが用いられます。この反応によりカテコールアミンは活性を失う事となります。
COMT阻害薬

COMTを阻害する薬物として、「エンタカポン」や「フロプロピオン」があります。
エンタカポンは末梢でのレボドパ代謝を阻害する事で代謝を抑制しレボドパ製剤の作用時間を延長させる薬剤です。
対してフロプロピオンは、消化管におけるノルアドレナリンの分解を抑制する事で交感神経作用を増強します。鎮痙作用を期待して用いられます。
レボドパの配合変化について
次にレボドパ製剤の配合変化について触れていきます。結論から申し上げますと、レボドパ製剤は塩基性条件化で分解反応が進行します。
塩基性条件で酸化されメラニンに
レボドパがメラニンに変化する反応を以下に記します。

カテコールが脱プロトン化されるところから反応が進行します。その後ヒドリドの脱離が起きキノンインドールとなります。そしてそのキノンインドールが多分子重合していく事でメラニン色素になります。
※外れやすいヒドリドはE1cb反応で説明出来ます。β位にあるヒドリドが引き抜かれやすいため、酸化反応や冠縮合反応が連続で起きていきます。

5,6-インドールキノン誘導体が合成される。インドールキノンが重合反応を起こすことによりユーメラニンが生成される
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A6%E3%83%BC%E3%83%A1%E3%83%A9%E3%83%8B%E3%83%B3
反応について要点をまとめると、レボドパが塩基性条件下に置かれると着色反応が促進されると考える事が出来ます。
主な具体例として、「レボドパと酸化マグネシウムの配合変化」「レボドパ製剤とテルミサルタンの一包化」「唾液や胃瘻への着色」を挙げそれぞれ説明していきます。
レボドパ製剤+酸化マグネシウムの変色

酸化マグネシウムは塩基性酸化物であり、水に溶けると水酸化マグネシウムとなります。生じた水酸化物イオンがレボドパの酸化反応を引き起こしメラニン生成を促進します。
また、レボドパがメラニンに変化するという事は、その分だけレボドパ量が減る事に繋がり治療効果への影響も気になります。
レボドパと酸化マグネシウムを混和溶解した実験では、混和直後からレボドパの分解が始まり、約10分でレボドパの残存率がほぼ0%となることが報告されている。
日経メディカルより引用
https://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/di/digital/201310/532831.html#:~:text=%E3%83%AC%E3%83%9C%E3%83%89%E3%83%91%E3%81%A8%E9%85%B8%E5%8C%96%E3%83%9E%E3%82%B0%E3%83%8D%E3%82%B7%E3%82%A6%E3%83%A0%E3%82%92,%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%9F%E3%81%A8%E8%80%83%E3%81%88%E3%82%89%E3%82%8C%E3%82%8B%E3%80%82
レボドパ製剤+テルミサルタンの一包化

次に、レボドパ製剤とテルミサルタンを一包化した際の影響についてです。これは、筆者が業務中に見たものになります。
レボドパ製剤とテルミサルタンの錠剤を一包化し数日経過するとテルミサルタンの錠剤表面が茶色く変色しておりました。これについて調べてみると、同様の現象に関する記事を何個か見つけました。
唾液、胃瘻などへの着色
レボドパは塩基性条件であればメラニン生成反応が進行します。上述した酸化マグネシウムやテルミサルタンの事例では、これらの薬剤が水に溶ける(もしくは吸湿)する事で塩基として働き反応を促進していると言えます。
あくまで、反応を促進する因子ですのでこれらの薬剤が無くてもレボドパはメラニン生成を引き起こす事があります。それが、レボドパ服用患者の胃瘻や、唾液、舌への着色などです。
実務に繋げよう
服用時点が特徴的なレボドパ製剤

先述したレボドパ配合剤。本剤の最大の特徴は1日3回以上の服用をする事があるという事です。上表は添付文書記載の標準用量をまとめたものです。メネシットやマドパーは3回となっていますが、5回投与で処方される事も普通にあります。

在宅で一包化を行いお薬カレンダーセットなどを行うのですが、1日5回で処方されると一包化で少し特殊な操作を行わなければいけなかったり、お薬カレンダーが1枚で足りないため2枚セットする必要があったりと工夫が必要です。
アドヒアランス確認の重要性と観察ポイント
パーキンソン病の勉強会に参加した際、パーキンソン専門医の先生のお話を聞く機会がありました。一番心配しているのは「レボドパをしっかりと時間通りに服用出来ているか?」であり、それが出来ていれば比較的コントロール良好で治療が上手くいく事が多いとの事です。
ここで言う「飲めているか?」とは飲み忘れなどだけでは無く、嚥下機能の低下などの影響でしっかりと服用出来ていない可能性なども考慮します。
しっかり飲み込めていなかったりすると、口腔内に残存したレボドパが着色し、舌や唾液が黒くなったりします。この辺に注意を払ってみるとより良いアセスメントに繋がるのではないでしょうか?
まとめ
- カテコールアミン合成経路の全体像
- カテコールアミンの作用発現には立体化学が重要
- AADCは芳香族アミノ酸の脱炭酸反応を触媒する。
- カテコールアミンの分解に関わる酵素として、MAObやCOMTがある
- レボドパは塩基性条件下でメラニンに変化し黒く着色する
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