初めに
今回は薬局実習での学びを最大限のものにする為に意識しておきたいことをまとめていこうかと思います。
私は2022年度の第2期に薬局実習に取り組みました。そこで自身の経験を基に「これを考えておくとより実習が有意義なものになるよ~」といった内容をお伝えしたいかと思います。
実習前に意識しておきたいことを知り、実習を最大限の学びにする為に何が出来るかを考えてみましょう。
これから薬局実習に行く方の参考になれば幸いです!
実習で意識しておきたいポイントまとめ
- 実習では肩の力を抜いてこれまでの経験をぶつけて行こう
- ある程度ゴールを言語化しておこう(実習が終わった後どうなっていたいか?)
→11週間が終わった時、どうなっていたいですか? - 何故?を掘り下げて考える癖を付けよう
- マナーや話し方と薬学の知識を結び付けて考える意識を持とう
- 一般名-作用機序の組み合わせは復習しておこう。余裕があれば商品名も
- 患者さんの話し方に対応できるようになる工夫
→検査値、薬、病気、症状など自分流で良いのでメモ用略語を作っておくと服薬指導のメモをとる時に役に立つ。 - 調剤-監査中は関連する「物理・化学・生物」を考える癖を付けておくと国家試験の勉強にも繋がる
- 「患者さんから学ぶ」マインドを持とう
理由とポイント 経験事例
では、上記の項目について理由と具体例を紹介していこうかと思います。
実習では肩の力を抜いてこれまでの経験をぶつけて行こう
慣れない環境へ行き慣れない作業をする事になるので多くの人が緊張するかと思います。でもご安心ください。それは皆同じ事です。筆者も最初は幾ばくかの不安がありました。
指導薬剤師の先生方は大体は優しいです。
※変な人に当たったらすぐ大学に相談して対応して貰いましょう。違和感を感じたらすぐ動く事が非常に重要になります。
また、OSCEに比べたら余裕です、定められた工程の順番、制限時間、やり忘れ、減点・・・みたいなものはありません。これが無いだけでもプレッシャーは相当軽いです。
つまりは、OSCEを突破した皆さんであれば実習でのプレッシャーはそこまで高く感じる事はないかと考えます。
是非自分に自信をもって実習にぶつかって行きましょう!
ある程度ゴールを決めておこう
実習先では「興味ある分野は何ですか?」と早い段階で聞かれます。その回答に応じて対応する患者さんを決めてくれたりします。
ですので、この質問にどう答えるか?の準備は実習前に必ずしておきましょう。
これを考えるポイントですが、「実習終了後にどうなって居たいか?」を想像してみると良いかもしれません。そこをベースに思考を逆算して、実習半ばで出来るようになっているべき事、実習1~2周で出来るようになっている事などを言語化しておきましょう。そうするとおのずとやりたいことや興味のある事が見えて来るはずです。
何故?を掘り下げて考える癖を付けよう
実習先の指導薬剤師の先生から質問される質問には2つほどパターンがあります。一つは考え方に関する質問ともう一つは知識に関する質問です。ここでは考え方の質問に焦点を当ててみます。

○○君(さん)
今回の処方には医薬品Aと医薬品Bが処方されていますがこの組み合わせにはどのような意図があるかと思いますか?

○○君(さん)
処方中の医薬品Cは夕食後服用になっています。添付文書には1日1回服用としか記載されていませんが何故夕食後なのかわかりますか?

○○君(さん)
これから××さんの指導をして貰おうかと思います。どのような事を確認するのが良いと考えますか?
このような質問をされた際、分からなかったらしっかりわからないと言いましょう。そうするとしっかりと答えを教えてくれるかと思います。
そこで大事なのが、その答えについて何故?を掘り下げて考える事です。

なんでこの質問されたんだろう?

この患者さんはそもそもどうして悩んでいるの?どこまで踏み込んだ質問しても大丈夫な人なのかな?

同じような注意が必要な薬って他には何があるんだろう? それはどうして?理由は同じような感じで理解して大丈夫かな?
などなどです。このように考える癖を持っておくと、限られた実習期間での学びを最大限の物に出来ます。
1から10を学ぶといった感じです。またこのように考えていくと、患者さんに最初何を確認するか?最初の話出しをどうするか?などが見えてきます。
マナーや話し方と薬学の知識を結び付けて考える意識を持とう
マナーや言葉遣いが最重要なのは皆さんお分かり頂いている事かと思います。だけど薬や治療の事を考えていたり、次から次へとくる処方箋を前にするとついつい抜けてしまう事がありました。
これの原因について考えてみた所、病態や患者背景別に気を付けておきたい注意点のようなものがある事が分かりました。
例 | 求められる配慮 |
---|---|
糖尿病・高血圧・高尿酸血症など | ・HbA1cなどの検査値を見せて貰った時はまずはお礼を言う ・本人なりに努力していることがあれば必ずそれを褒める ・医療者目線での目的意識(HbA1cを正常化~)などを押し付けるのでは無く、患者さんと共にゴールを設定して行く意識を持つ |
膠原病治療中の方など | ・感染対策の指導は必須だけど、毎回毎回同じことを言われると嫌に感じる方もいる。 →患者の理解度に応じて指導の強度を変える。 ・初回処方の場合は必ず患者の理解度について確認して評価する。 →確認する際は必ず質問意図が伝わるような工夫を |
メンタル系の処方が出ている方 | ・とにかく踏み込み過ぎには注意する。 →精神系の処方の場合、何らかの触れてはいけない内容があります。 ・患者さんが話してくれそうであればとにかく傾聴する。 |
体調が悪そうな方 | ・体調が悪い方に長々と指導は厳禁です。要点を抑えてサクッと説明しましょう。 →熱がある方への解熱剤、怪我をされている方への鎮痛剤などがこのケースに該当するかと思います。これらの薬剤については日頃の勉強の時から要点を抑えて説明する訓練が必要になります。 |
睡眠剤使用中の方 | ・医療者側と患者さんで一番意見が分かれやすい領域です。眠剤の依存になっている方ですととにかく薬が欲しいなどの訴えもあります。患者さんの意見を尊重した上で、リスクについて分かって貰う事「アサーティブスキル」が高いレベルで要求される領域です。 |
一般名-作用機序の組み合わせは復習しておこう。余裕があれば商品名も
次に薬理学的な内容です。これまで学んできた薬の一般名を見たら作用機序が頭の中に思い浮かぶくらいの状態であれば良いです。処方箋や薬歴を見た時、「これって薬理で勉強したやつだ!」が連想する事が出来るだけでもかなりの学びになるからです。
薬歴・処方箋確認中に・・・

この薬って大学の薬理で習ったやつだ!
確か○○受容体に拮抗する薬だよね?
作用としては××で・・・
みたいに考える事は、実習初日からでも出来るはずです。実習ではこの考え方を基礎とした上で、薬の効果効能・用法用量・副作用などをより詳しく学んで行く事になります。逆にこの考え方が欠けていると添付文書に書かれていることを暗記するだけみたいな形で終わってしまう事になります。
※実際筆者も薬理学に穴があり、添付文書の内容をとりあえず覚えるみたいになってしまっていた薬もありました。
また、指導薬剤師さんから聞かれる「知識」に関する質問ですが、これのうち6~7割くらいの割合で薬理学に関するものでした。

○○さん
アムロジピンって何の薬ですか?

血圧を下げる薬です!

そうですね。血圧をどの様に下げる薬でしたか?

血管平滑筋のカルシウムチャネルをブロックして血圧を下げます。
このように指導薬剤師さんからの「○○って何の薬?」という質問は、適応疾患だけでは無く作用機序までセットで聞かれる事が殆どです。この二つをセットで回答できるように一般名と作用機序の組み合わせは最低限把握しておきましょう。
商品名についても余裕があれば覚えておきましょう。○○って何の薬?については商品名で指導薬剤師さんから聞かれる事もあったからです。医薬品名の由来についてはこちらもご参照下さい!

患者さんの話し方に対応できるようになる工夫
私が一番苦労したのはこの項目です。患者さんの話は、まとまっていない事が多いです。これまで仕事上のバイト先の友人や大学の先輩、先生などと話すことが殆どでした。これらのコミュニケーションで共通しているのが、明確な目的を決めた上での会話であったという事です。この為完璧では無いですが、論点と話し方が組み立てられた会話でした。
しかし患者さんの話はどうでしょう? ※実際の会話では無く想定したフィクション

昨日から少し下痢が気になっていてね。しかもスーパーに行こうとした時で、夕食のカレーの具材を見に行った時なんだけど、トイレが急にしたくなってきてスーパーのトイレを借りたのよねそうしたら水っぽいというか?帰ってからテレビ見てご飯食べてたりしてしばらくトイレには行かなかったんだけどその後トイレに行ったらまたまた柔らかくて。なんか普段と違うのよ~
今日受診日だったし相談してみようと思ってたんだけど先生に伝え忘れちゃってね
このような感じで、かなりの情報量がバラバラに会話の中に含まれている事もあります。慣れるまではなかなか会話の要点が掴めずに苦労しました。雑談の内容にばかり気を取られてしまい本当に重要な情報を取れないで投薬が終わってしまう・・・なんてこともありました。
ここで、これを直すために意識した事を少し紹介しようかと思います。
- 投薬用のメモ帳のフォーマットを作成し、投薬前に確認事項を整理した
- 病態や薬に関する内容は略語を活用して効率的なメモ。(数値以外)
- when に関わる情報は非常に重要なのでカタカナと数字で
自分なりに作成した服薬指導用フォーマット
こんな感じのメモ用フォーマットを作成して投薬指導に臨みました。
メリットは二つほどあります。1つは服薬指導前に短期間で患者の基本情報を把握する事が出来たこと、もう一つは聞き漏らしや聞き忘れが大幅に減少した事でした。そして何よりも服薬指導中に聞くべき情報を確認する事が出来るので、雑談は雑談、医療情報は医療情報と切り分けが楽になりました。
メモを取る時は略語を活用
上記のような患者さんの対応をする場合、メモは必須になります。(記憶力に強い自信のある方は不要だと思いますが)。ですが、話しながら1語1区正確にメモを取るのはなかなか難しいです。そこで私が考えたのは略号の活用です。病名や検査値などは教科書などで使われている一般的な略号を活用し、それ以外のものについては自分なりの略号を活用して対応しました。※あくまで自分が読むメモで使うものなので、薬歴など他の職員の方が見るもので使うのは避けましょう。
覚えておくと良い略語
系列 | |
---|---|
・病名に関する略語 | ・DM(糖尿病) ・HU(高尿酸血症) ・HT(高血圧) |
・症状に関する略語 | ・CSP(便秘) Constipationより自分で作成した ・DAH(下痢) Diarrheaより自分で作成した。 |
when に関わる情報は数字と単位と前後関係
患者さんの話す情報のうち、時間に関する情報は重要である事が多いです。というのも症状の発現時間などの情報は、経過を正しい時系列で把握する為に必須になる情報だからです。実際、患者さんの自覚症状に関するS情報を薬歴記載する時は必ず「○○頃から××の訴えあり」と記録するように言われました。
時間に関する情報を効率的にメモを取るために必要な事は、数字と単位と前後関係です。
まず数字についてですが、非常に重要な情報です。必ず聞き取り、最優先でメモを取りましょう。記録が無いと薬歴を書くとき詰みます。
次に数字と一緒に単位に関する情報が必要です例えば1日前なのか1週間前なのか1ヶ月前なのか同じ1でも非常に意味が異なって来ます。これらの単位に関する情報も正確に記録をする事が求められるので、day week month などの英語を基にメモ用の略語を考えておくと良いでしょう。
最後に前後関係。例えば、薬を飲んだ前に症状が出たのか飲んだ後に症状が出たのか?等です。これらについても正確に聞き取るようにしましょう。
上記の情報を基にメモの取り方を整理してみようかと思います

昨日から少し下痢が気になっていてね。しかもスーパーに行こうとした時で、夕食のカレーの具材を見に行った時なんだけど、トイレが急にしたくなってきてスーパーのトイレを借りたのよねそうしたら水っぽいというか?帰ってからテレビ見てご飯食べてたりしてしばらくトイレには行かなかったんだけどその後トイレに行ったらまたまた柔らかくて。なんか普段と違うのよ~
今日受診日だったし相談してみようと思ってたんだけど先生に伝え忘れちゃってね

(症状)下痢 昨日から 医師には伝えてない
メモ内容 ○○さん DHA when→サクジツ ev ~ now ※夕食のカレー買いに行った時から →Dr tell×
※略語 DHA:下痢 ev:夕方 now: 今 Dr:医師 tell: 伝えたか?
※自分のメモ用に作った略語なので正式な物ではありません。
上記のメモでは赤文字で記録した部分の情報は薬歴を書くのに必須になります。この情報が欠けると薬歴の必須記載項目を満たすことも難しくなってきてしまいます。青字で書いた項目も、今後の対応を判断する為に必要な情報になるかとおもったので記録しました。
※の情報は患者さんの雑談に関する情報です。もしかしたら必要になるかもしれない、食事指導等の役に立つかもしれない情報なのでメモに残しておきました。
調剤-監査中は関連する「物理・化学・生物」を考える癖を付けておくと国家試験の勉強にも繋がる
次に国家試験対策的な観点からの内容です。近年の国家試験は実際の薬剤師業務を基礎科目の「物理・化学・生物」の理論的な内容に落とし込むような出題が増えています。以下に例を示します。
- 尿の着色について患者さんから相談があり薬剤師が対応するシチュエーション。着色の理由を成分の可視光線吸収の観点から考えさせる出題。(物理) 104回 問203
- インフルエンザの検査キットに関して、抗体と抗原の仕組みについて考えさせる問題(生物) 103回 204 205
- PPI(ラベプラゾール)の粉砕不可能の理由に関する問題。酸性条件下での薬剤の構造変化による薬効発現と、その反応機構を考えさせる出題 (化学) 105回 206 207
このような問題は毎回出題されています。新傾向の問題として、聞いたことが無いような話が出題される可能性も十分あり得るかと思います。実習中、触れた薬品や関わった事例に対してこのように大学で学んだ基礎科目との関連性を考える癖を付けておくと良いでしょう。私は実習をしていて、物理・化学・生物の80%程は実習と関係している内容だと感じました。
「患者さんから学ぶ」マインドを持とう
最後に伝えたい事は「患者さんから学ぶ」マインドを持つ事です。患者さんは自身の病気の事やそれに対してどの様に対応するのが良いか等一番よく分かっています。
薬剤師に求められるのは、患者さんの持っている知恵や考え方を引き出す事かと思います。そして足りない事や間違っている事があれば少しずつ軌道修正していき、患者さんにとってより良い状態になる為の橋渡しをします。
患者さんにとっての利益は何か?を考えそこに患者さん自身が向かって行けるようなお手伝いをしなければなりません。この為にまず最初にしなければならない事は、「その患者さんの事を知り尽くす」いわば患者さんのプロになる事です。こうなる為に、患者さんから学ぶという姿勢が非常に重要だという結論に至りました。
最後に
最後までお読み下さりありがとうございます。薬局実習を通して得られた知見を多くの方に共有したいという想いで本記事を作成しました。これから実習に行く4年生や来年・再来年移行に実習にいく1~3年生の参考になれば嬉しいです。
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